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理学博士・松井孝典さん『考えれば手に入る』(前編)

 宇宙って、いったいどうなっているんだろう──。子どもの頃、そんなことを空想してワクワクした経験は、きっとだれにでもあるはず。宇宙のスケールで生命の起源や普遍性について研究・調査を行い、世界的に注目を集めている日本の惑星科学の第一人者、松井孝典さんにお話を伺った。

好きなことに時間を100%使える人生

―松井先生はさまざまな著書の中で「人間圏」という言葉を使われていますが、これはどういうものですか?

 「人間圏」というのは、地球に大気があり海があり生物圏があり……というのと同じように、今我々が「人間圏」という新しい構成要素をつくって生きているという、その構成要素に私が命名した言葉です。

 我々は今、生物圏の中の種のひとつとして生きているのではなく、「人間圏」という別の構成要素をつくって、地球システムの中で生きてるんですよ、ということですね。

 長い年月をかけて次々と新しい物質圏が分かれてきて、その一番最後、一万年前に分かれたのが「人間圏」なんです。


―生物圏と人間圏の大きな違いというのは?

 狩猟採集ではなく、農耕牧畜をはじめたということです。それが地球システム論的には、人間圏をつくって生きる生き方であり、この生き方を「文明」と呼ぶんですよということです。


―「文明」というものも、ここ100年ほどで急速に発展してきましたね。

 それは、人間圏が急速に拡大した、ということです。なぜ拡大したかというと、人間圏の中に駆動力が生まれたからです。駆動力というのは、化石燃料や原子力などエネルギーですね。こうした駆動力を持って、地球上でものを早く動かすような人間圏に変化したから、人間圏は大きくなれた。それが産業革命以降なんです。だから人間圏には発展段階が2つあります。産業革命以前と以後とで違うんです。


―松井先生が地球や宇宙のことに関心を持たれたきっかけは?

 特別にはないんですけど、何をやろうかという時に、学者という人生を送ろうと思っただけで、何の学問をやるかというのはその次でした。何でもいいんですけど、まあ学問というのは文学か理学しかないだろうという、私の価値観ですね。

 工学や農学、医学や経済などは、人間が生きていくために必要な技術であり、学んだことを人間圏に利用できるような学問ですが、もっと本質的な問題として「人間とは何か」「自然とは何か」というのがあるわけです。そういうものをやろうと思ったんです。


―学者という職業の方は、非常に好奇心が強いというイメージがありますが、学者に限らず、好奇心というのは人生の豊かさと大きく関係するような気がします。

 好奇心がなかったら学者なんかできませんからね、好奇心は旺盛ですよ。でも、学者にとってはそうだけど、普通の人にとって好奇心が一番重要な能力かどうかは、なんとも言い難いですね。お金もうけをしたいという人もいれば、豊かに暮らしたいという人もいる。それはいろいろでしょう。


―では松井先生にとっての豊かさとはどんなことですか?

 自然の中には、宇宙の誕生以来の歴史が記されています。この「自然」という古文書を読み解くことほど、豊かさを感じること、贅沢なことはないんじゃないかと思いますね。だって、誰も知らないようなことを一人で読めるんですから。


―物質的な意味での豊かさということにはあまり関心がないですか?

 私は最初からそういうものに興味がないというか、価値を認めていないんです。「自分の人生とは何か」と考えた時、自分の好きなことに時間を100%使える、そういう人生が最高の人生だと思ったから、学者を選んだんです。

 ただ漠然と大学に行き、卒業して就職して定年退職して、「自分の人生はこんなはずじゃなかった」と思う人がいたとしたら、それは「自分の人生とは何か」ということを自分の頭で考えなかったからそうなったということですよね。自分の頭で考えればどんな人だって、思い描くような人生はつくれます。

 自分の人生を精一杯生きて死ねるということほど、しあわせなことはないですよ。私は、ただ長生きするということが人生の目的だとは思っていませんから、それよりも「どう生きるか」「どう生きたか」、そこが重要だと思っています。


―単純に「長さ」ではなく「質」が大事なんですね。

 そういうことを考えて自分の人生を送らなきゃ、望むような人生は手に入らない。考えれば手に入る。それだけのことですよね。

 だって、ホモ・サピエンスって「考える人」という意味なのに、考えることができなきゃ人間じゃないってことですよ(笑)。


(後編に続く)


松井 孝典(まつい・たかふみ)
1946年静岡県生まれ。東京大学理学部卒、同大学院修了。NASA研究員、マサチューセッツ工科大学招聘科学者、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授などを経て、現在千葉工業大学惑星探査研究センター所長。東京大学名誉教授。「クラブ・ウィルビー」サポーティングメンバーでもある。
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「クラブ・ウィルビー」は、「新しい大人文化の創造」を目指して創設された、会員制のネットワーク。 セミナー、旅行、トークセッションなどのオリジナルプログラムを通して、リアルなコミュニケーションを楽しむことができます。夢や目標を実現させたいという会員をサポートするプログラムも開催の予定。また、「新しい大人文化の創造」という趣旨に賛同する学識経験者、作家、アーティスト、クリエーターなど、100人を超える著名有識者がサポーティングメンバーとしてクラブに参加しています。ウェブサイトよりメンバー登録受け付け中です(無料)。

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2009年11月03日  読売新聞)

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