自慢の嫁に相続させられない無念
「いい嫁に恵まれて、私は幸せ者です」
こんな“嫁自慢”が口癖の芳江さん(仮名)が浮かぬ顔で相談にやって来たのは、亡くなったご主人のご葬儀を終えて間もなくのことでした。
芳江さんご本人は65歳、もともと長男夫婦と都内の一戸建て住宅で同居していましたが、3年前に長男を交通事故で亡くし、芳江さんご夫婦とお嫁さんの3人で暮らしてきたといいます。お子さんはほかに二男と長女がいますが、いずれも独立しており、二男は北海道、長女は大阪に、それぞれいらっしゃるとのこと。長男の死後は、何につけてもお嫁さんを頼りにして生活されてきたし、お嫁さんも甲斐甲斐しく尽くしてくれているのだそうです。
芳江さんの相談は、ご主人を亡くして気付いた「後悔」がきっかけになっています。
「嫁には相続財産がまったく行かないことに気付いたんです。毎日世話になっているのに、申し訳なくて……。だから自分の財産は嫁に譲りたいのですが、いい方法はあるでしょうか」
お嫁さんに対する申し訳ないという気持ちと、自責の念が入り混じった様子で話す芳江さんは、今にも消え入らんばかりに身を小さくしていました。
実は、このような相談は少なくありません。「息子の嫁に介護してもらっているので、遺産を相続させたい」「感謝の気持ちとして、大事にしてきた指輪を譲りたい」などという相談を、私もいくつか受けた経験があります。
血のつながりがあるかどうかとは別に、面倒を見てくれた人に財産分けをしたいというのは、ごく当たり前の感情でしょう。もっとも、今のところ体も元気で頭もしっかりしている芳江さんですが、もし介護が必要になったときにはお嫁さんの世話になろうと考えているらしく、将来に向けての“備え”の意味も兼ねているようでした。
遺言、養子縁組……打つ手はある
さて、芳江さんのご主人の財産は、芳江さんに半分、二男と長女に4分の1ずつ相続されています。長男夫婦に子供がいれば、その子供が長男の代わりとして相続できる(代襲相続)のですが、長男夫婦にはお子さんがありませんでした。芳江さんが何の手も打たずに亡くなったとすると、その財産は二男と長女で分け合うことになり、「長男の嫁に」という思いは果たされません。身近で献身的に世話をしたかどうかなど、法律は考慮しないのです。
しかし、芳江さんの意向に添う方法はあります。それも4種類あるので、以下のように一つずつご説明しました。
一つは「遺言」です。相続についての意思を明確にするには、遺言の効果は非常に大きいと言えます。遺言を作っておけば、芳江さんの意思を完全に反映させることができるのです。
二つめの「養子縁組」は、お嫁さんを芳江さんの養子とすることにより、相続人の仲間入りさせる方法です。ただし、養子縁組しただけでは、他の相続人もいますので、全財産をお嫁さんに譲ることはできません。そうしたい場合にはやはり、遺言が必要になります。
三つめとして「生前贈与」があります。毎年少しずつ、財産を贈与していくやり方になります。お嫁さんに財産が渡るのを芳江さん自身が確認できるメリットはありますが、年間110万円を超えると贈与税が発生するので注意も必要です。
四つめに「生命保険の受取人とする」方法が挙げられます。お嫁さん自身が保険金の請求を行えばよいので、財産を確実に与えるには向いているでしょう。ただし、芳江さんが高齢であり、病気があったりすれば、思うような生命保険に加入できない可能性があります。
どの方法を選ぶかは芳江さんしだいですが、例えば「養子縁組」となると実子である二男や長女との間が気まずくなるなどのことも考えられます。「株式投資は自己責任で」とは良く聞きますが、財産をだれに、どのように譲るかについても自己責任で決めていただかなくてはならないものだと思います。
(相続手続支援センター本部 半田貢)
昭和47年、中央大学経済学部卒。昭和53年 シグマジャパン株式会社設立 代表取締役就任。平成 9年 社会保険労務士ネットワーク設立、現在255人の社労士が参加。定例研修会、研究 会を開催している。平成15年11月、相続手続支援センター設立し。株券・自動車の名義変更から登記・税務申告までを弁護士、税理士、司法書士、社労士とネットワークを組み、ワンストップサービスを行っている。



